051860 ランダム
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艶色艶美 毒林檎

艶色艶美 毒林檎

椎名林檎 SS

虚言症

しかし何故にこんなにも眼が乾く気がするのかしらね
黄色の手一杯に広げられた地図には 何も無い
そして何故に雨や人波にも傷つくのかしらね
魚の目をしているクラスメイトが 敵では 決して無い

線路上に寝転んでみたりしないで大丈夫
いま君の為に歌うことだって出来る
あたしは何時もボロボロで生きる

例えば少女があたしを憎む様なことがあっても
摩れた瞳の行く先を探り当てる気など丸で無い

徒に疑ってみたりしないで大丈夫
いま君が独りで生きているなんて云えるの
君は常にギリギリで生きる
あたしは何時も君を想っているのに

髪の毛を誘う風を何ともすんなり受け入れる
眩しい日に身を委せることこそ悪いこととは云わない

無理矢理に繕ってみたりしないで大丈夫
いま君の為に歌うことだって出来る
あたしは何時もボロボロで生きる

徒に疑ってみたりしないで大丈夫
いま君が独りで生きているなんて云えるの
君は常にギリギリで生きる
あたしは何時も君を想っているのに


浴室

新宿のカメラ屋さんの階段を降りた茶店は
ジッポの油とクリーム あんたの台詞が香った
云ったでしょ?「俺を殺して」

今日は特別に笑ってばかりのあたしは丁度
さっき一度夢で死んだあんたを仕方無く愛す
どうか 見捨てたりしないで

洗って 切って 水の中
呼吸器官は冒される
あたしが完全に乾くのいまきちんと見届けて
磨いて 裂いて 水の中
無重力に委される
あたしが完全に溶けたらすぐきちんと召し上れ

あんたが目の前で絶えて嗚咽を止められなかった
何だか浮世の全て恋しくて堪らなかった
あんな夢を見させないで

甘い匂いに汚された
御留守になっていた守備部隊
あたしが完全に乾くのをいまきちんと見届けて
赤い嘘に汚された
自分で吐いて傷を見た
あたしが完全に溶けたらすぐきちんと召し上がれ

云ったでしょ?「俺を殺して」

洗って 切って 水の中
呼吸器官は冒される
あたしが完全に乾くのいまきちんと見届けて
磨いて 裂いて 水の中
無重力に委される
あたしが完全に溶けたらすぐきちんと召し上れ

退屈なんか怖れていない
どうして二人は出会った?

退屈なんか怖れていない
どうして二人は出会った?


弁解ドビュッシー

言いたいことを探し疲れて結果 無駄口吐いてばかり
どうせあたしの人生 語路合わせなんだもん
どうして価値に理由を付けてポーズを執らされているのか
だって淀んだ水が薫るピアノなんだもん

あんたは仕様が無いと云うし現実にあたしも判らぬ
泣いて惑う位なら もう 全部無かったことにしよう

甲斐性が無く向かいの風のみ専門に出来る雄じゃなくちゃ
どうせあたしの人生語呂合わせなんだもん
チョーキングだけに支配されて変化する莫迦な女で宣し
云々で誤魔化して好い加減に飛んで居たい

何でも買ってあげるから 帰るだなんて巳めなさい
真の慈愛等恐らく 最初から欲しくなかった

本当は全部大事である
本当は全部ラビッシュであろう
本当は全部真理である
本当は全部トリックであろう


ギブス

あなたはすぐに写真を撮りたがる
あたしは何時も其れを厭がるの
だって写真になっちゃえば あたしが古くなるじゃない

あなたはすぐに絶対などと云う
あたしは何時も其れを厭がるの
だって冷めてしまっちゃえば 其れすら嘘になるじゃない

don’t U θink? i 罠 B wiθ U

此処に居て
ずっと
明日のことは判らない
だからぎゅっとしていてね ダーリン

あなたはすぐにいじけて見せたがる
あたしは何時も其れを喜ぶの
だってカートみたいだから あたしがコートニーじゃない

don’t U θink? i 罠 B wiθ U

傍に来て
もっと
昨日のことは忘れちゃおう
そしてぎゅっとしていてね ダーリン

また四月が 来たよ
同じ日のことを思い出して


闇に降る雨

余りの暑さに目を醒ましさっき迄見ていた夢の中
東西線はあたしを乗せても新宿に降ろしてくれなくて

辿り着けない
此処に欲しい腕や髪や首筋
貴方の嫌う生温い雨に濡らされてゆく

貴方に降り注ぐものが譬え雨だろうが運命だろが
許すことなど出来る訳ない
此の手で必ず守る
側に置いていて

天気予報が外れてばかりの毎日が見させた嘘の闇
高揚も時めきも溜め息も消耗しやがて失くなりそうで

招きたくない
空々しい土の香や向日葵の
すぐにも迎う馨しい絵画と化する日など

貴方を知り尽くすことが譬え 可能だろうが不可能だろうが
満たされる日が来る筈もない
身体が生きている限り
側に置いていて

貴方に身を委かすことが譬え 危険だろうが安全だろうが
留め金などが在る筈もない
全て惜しみなく挙げる

貴方に降り注ぐものが譬え雨だろうが運命だろが
許すことなど出来る訳ない
此の手で必ず守る
側に置いていて


アイデンティティ

是程多くの眼がバラバラに何かを探すとなりゃあ其れなり
様々な言葉で各々の全てを見極めなくちゃあならない
正しいとか 間違いとか 黒だとか 白だとか

何処に行けば良いのですか
君を信じて良いのですか
愛してくれるのですか
あたしは誰なのですか
怖くて仕方が無いだけなのに・・・

是程多くの眼がちやほやとひたすらあたしを肯定した
様々な合図でてきぱきと姿を見破らなくちゃあならない
優れていて 劣っていて 数だとか レヴェルとか

此々に居れば良いのですか
誰が真実なのですか
お金が欲しいのですか
あたしは誰なのですか

何処に行けば良いのですか
君を信じて良いのですか
愛してくれるのですか
あたしは誰なのですか
此の先も現在も無いだけなのに・・・


罪と罰

頬を刺す朝の山手通り
煙草の空き箱を捨てる
今日もまた足の踏み場は無い
小部屋が孤独を甘やかす

「不穏な悲鳴を愛さないで
未来等 見ないで
確信出来る 現在だけ 重ねて
あたしの名前をちゃんと呼んで
身体を触って
必要なのは 是だけ 認めて」

愛してる-独り泣き喚いて
夜道を弄れど虚しい
改札の安蛍光燈は
貴方の影すら落さない

歪んだ無常の遠き日もセヴンスターの香り
味わう如く季節を呼び起こす
あたしが望んだこと自体 矛盾を優に超えて
一番愛しい貴方の声迄 掠れさせて居たのだろう

静寂を破るドイツ車とパトカー
サイレン
爆音
現実界
或る浮遊

「不穏な悲鳴を愛さないで
未来等 見ないで
確信出来る 現在だけ 重ねて
あたしの名前をちゃんと呼んで
身体を触って
必要なのは 是だけ 認めて」

「不穏な悲鳴を愛さないで
確信出来る 現在だけ 重ねて
あたしの名前をちゃんと呼んで
身体を触って
必要なのは 是だけ 認めて」

頬を刺す朝の山手通り
煙草の空き箱を捨てる
今日もまた足の踏み場は無い
小部屋が孤独を甘やかす


ストイシズム

あなた
きれい
すてき
きらい
つよい
よわい


月に負け犬

好きな人や物が多すぎて 見放されてしまいそうだ
虚勢を張る気は無いのだけれど取分け怖いこと等ない

此の河絶えず流れゆき
一つでも浮かべてはならない花などが在るだろうか
無い筈だ
僕を認めてよ

明日 くたばるかも知れない
だから今すぐ振り絞る
只 伝わるものならば 僕に後悔はない

何時も身体を冷やし続けて無言の季節に立ち疎む
浴びせる罵声に耳を澄まし 数字ばかりの世に埋まる

上手いことを橋を渡れども
行く先の似た様な途を 未だ走り続けてる
其れだけの
僕を許してよ

逢いたい人に逢うこともない
だから手の中の全てを
選べない 日の出よりも先に 僕が空に投げよう

吐く息が熱くなってゆく

明日 くたばるかも知れない
だから今すぐ振り絞る
只 伝わるものならば 僕に後悔はない

逢いたい人に逢うこともない
だから手の中の全てを
選べない 日の出よりも先に 僕が空に投げよう


サカナ

ちっぽけで汚らしい動物 雌
一体生まれてから二十年弱
生きて来たのだろうか 其の上
只 易々と 泳いで行くのかしら

たったいま頂戴した言葉 其れ
一体どういう意味を持つのですか
「愛している」と云う腕の中で
只 易々と 泳いで行くのかしら

あたしが足の指五本 踵一個 不思議も無く此処にへばりつける
此のことを詳しく説明して下さいな
唇ばかりそう見つめる前に

はっきりしないあたしの生態 雌
一体 生まれる迄歴史などが
少しでも動いたと 云えるの
只 安々と 泳ぐだけなら

あたしが届かない雲の彼方に不思議も無く厳かに構える
日のことを詳しく説明して下さいな
手を取り優しくそう捕える前に

あたしが足の指五本 踵一個 不思議も無く此処にへばりつける
此のことを詳しく説明して下さいな
唇ばかりそう見つめる前に


病床パブリック

ドイツ色のタクシーなら
新橋目指す 外苑東
レスポールは 絶対 黒
対抗車線 快感ジャガー

巧妙 時制 白血球
片や妄想に生命を揺らし 消化した筈の汚物まで
戻して失う

噛んだ爪を吐いて捨てた
四丁目は呑気過ぎる
感情共 燃焼さす
Y染色 減少気味

頽廃 裸体 安全圏
既にもう女として生まれた才能は発揮しているのだけど
脱がせて欲しい

巧妙 時制 白血球
片や妄想に生命を揺らし 消化した筈の汚物まで
戻して失う

倦怠 虚勢 優等生
もしも愛なんて呼んで居なくて信号と云う解答で貴方を誘い出しても
変わらないかな


本能

どうして 歴史の上に言葉が生まれたのか
太陽 酸素 海 風
もう充分だった筈でしょう

淋しいのはお互い様で
正しく舐め合う傷は誰も何も 咎められない
紐 解いて 生命に 擬う

気紛れを 許して
今更なんて思わずに急かしてよ
もっと中迄入って
あたしの衝動を 突き動かしてよ

全部どうでもいいと云っていたい様な月の灯
劣等感 カテゴライズ
そういうの 忘れてみましょう

終わりにはどうせ独りだし
この際虚の真実を押し通して絶えゆくのが良い
其の鋭い目線が 好き

約束は 要らないわ
果たされないことなど 大嫌いなの
ずっと繋がれて 居たいわ
朝が来ない窓辺を 求めているの


依存症

急に只 寝息が欲しくなって冷凍庫にキーを隠したのです
夢の隙に現を殺し 戦う不条理なレッグカフ
・・・今朝の二時

シャーベッツのロゴが抜けている黄色い車の名はヒトラー
明け立ての夜を強請る品川埠頭に似合うのです
・・・今朝の五時

あたしが此のまゝ海に沈んでも何一つ汚されることはありませぬ
其れすら知りながらあなたの相槌だけ望んでいるあたしは病気なのでしょう

甲州街道からの渋滞が激化して日本の朝を見ました
覚醒を要する今日と云う厳しい予想に惑うのです
・・・つい先も

どれ程 若さの上に丸で雲切れの笑顔を並べど変わりませぬ
孤独を知る毎に あなたの相槌だけ望んでいるあたしは
あなたの其の瞳が頷く瞬間に初めて生命の音を聴くのです
天鵞絨の海にも 仕方のないことしか無かったら あたしはどう致しましょう

翻弄されているということは状態として 美しいでしょうか
いいえ 綺麗な花は枯れ醜い過程が嘲笑うのです
・・・何時の日も


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